大阪市立大学大学院 生活科学研究科 栄養医科学研究室

大学院GPについて

大学院GPについて

 平成19年度に後半に採択された本プログラムは、21年度で3年間の文科省による助成期間を終了しました。文科省の援助期間が終了した22年4月からは、大阪市立大学新規重点項目、教育支援事業に選定され、"地域ケアを担うPh.D.臨床栄養師の養成"として継続することになり、平成25年度も継続選定されました。平成23年度入学の大学院生は修士4名で、一名は京都府立医科大学附属病院栄養部、一名は郷里の循環器専門高次機能病院栄養科、一名は中部国立病院機構、一名は大阪府立成人病センター病院栄養部にそれぞれ就職しました。25年度は、3名が修士課程に入学しました。管理栄養士業務の高度に化対応して、高次機能病院における管理栄養士の募集要項も高学歴を求められつつあり、将来管理栄養士として高次機能病院で働きたい、あるいは現役の管理栄養士がキャリア形成の必要性を感じて進学する社会人大学院として、"臨床栄養学的経験とスキルを習得しつつ、臨床栄養学的課題をもって学位論文を執筆する"というコンセプトを有する当該プログラムの存在意義は高まっています。

 本プログラムは当大学医学部附属病院におけるNST研修、回診、カンファレンス参加、個人栄養指導、肝臓病教室、糖尿病教室などの集団栄養指導など実習、演習を多彩に組み入れ、高度な臨床栄養学的課題の解決法を習得することを目指しています。医学部附属病院栄養部には当学科、研究科の卒業生が現役の管理栄養士としておられることもあり、当初より本プログラムの遂行に多大なご協力をいただいています。本年度は、医学部附属病院栄養部を介して、医学部血液内科、消化器外科、整形外科、耳鼻咽喉科、放射線科、肝胆膵外科、消化器内科、肝胆膵内科など、多数の診療科と共同研究を行っています。学生にとっては、多様な診療科特有の栄養学的課題を研修する場であり、課題を論文化する過程を医師、看護師、臨床検査技師などと、ともに学ぶ良い機会になっています。

 当プログラムの目玉企画である医学部4回生向けの系統臨床講義を2単位(消化器病学、肝胆膵病態学、計54こま)受講も継続しています。コメディカルの一員である管理栄養士にとって、医学部学生に対する臨床系統講義は、それぞれの臓器器官に対する基礎的知識から、最先端の病態理論、治療法を系統立てて学ぶ非常に良い教材であり、医学部の授業という大学にとっての知的財産を、生活科学大学院の教育にも役立てるという面で、"学部間"および"学部と院"との垣根を越えた教育システムの嚆矢として評価されています。また本年も医学部第2解剖学教室のご厚意で、医学部2回生の系統解剖学実習に参加させていただき、医学部2回生とともに人体解剖の実際を経験させていただいています。卒後臨床現場で働き、臨床研究をする上で、系統解剖実習に参加するという貴重な経験となっています。医学部卒後教育学との共同教育事業として、阿倍野メディックス8階のスキルシュミレーションセンターで、医学生同様、精巧なファントムを使用した採血、聴診、打診、腹部超音波検査などの体験実習、AED講習も経験させていただいています。コメディカルスタッフとして活動する上で、極めて有意義な経験をさせていただいています。また、医学研究科荒川哲男研究科長のご厚意で、医学部・医学研究科と生活科学部・生活科学研究科との間で、"研究、教育、実習に関する包括的協定"を締結していただきました。本提携に基づき、従来以上に医学研究科との緊密な協力関係ができ、チーム医療の担い手の一員としての管理栄養士教育にも有益なパートナーシップが構築されるものと期待されています。

 院生の学位論文執筆のフィールドとしても、上述の市大附属病院関連のみならず、関西医科大学附属枚方病院健康科学センター 木村穣教授、同附属枚方病院外科 海堀昌樹講師のご指導のもと、肥満外来における栄養、運動指導による減量効果、肝癌術後患者に対する運動処方の効果に関する臨床研究を続行中です。また兵庫医科大学肝胆膵内科西口修平教授のご指導のもと、当研究科院生も参加させていただく共同研究も始まりました。大阪市立総合医療センター、大阪市立十三市民病院、東住吉森本病院にも、NST研修や個人、集団栄養指導の演習、臨床研究にご協力いただいています。各病院のスタッフ、患者様のご協力で、多様な病院での栄養士業務を体験させていただいています。特に東住吉森本病院には、修士1年生を対象に2週間に及ぶ本格的な臨床実地研修を企画していただき、教育効果も検証して日本でも有数の実地研修プログラムに育って行くことを期待されます。

 本GPを通じた地域貢献として、東住吉区駒川商店街健康祭り、十三市民病院糖尿病予防フェスタなどにもひき続き参加し、地域住民の健康診断、栄養指導などに携わりました。院生にとって、地域住民の方と栄養相談、栄養指導を通じて触れ合い、管理栄養士として予防医療への取り組みを経験する非常に良い機会となっています。

 当教育プログラムの目標の1つに、地域における介護現場において能力を発揮できる管理栄養士の養成を挙げていますが、今年度から西宮市社会福祉事業団 訪問看護課が取り組んでおられる平成25年度厚生労働省老人保健健康増進事業 「 訪問看護ステーションの多機能化に向けたモデル事業 」の「 多職種による相談・助言モデル事業 」に参加し、居宅被介護者に対する栄養指導の有用性に関して、社会人修士1年生である辻多重子さんを中心に取り組んでいます。管理栄養士が訪問看護師や介護士さんとチームを組んで、在宅介護支援の現場でも能力を発揮する方法を模索しています。

 本GPの目標一つとして、研究成果を海外の学会で発表する、英文で学位論文を執筆すること挙げています。本年度から、新たに特任助教に就任された加藤久美子先生は、日本で管理栄養士国家試験に合格された後、アメリカの大学院で修士を取得、その後アメリカでの登録栄養士の資格も得て、同国で登録栄養士として数年間実務経験を積んだキャリアをお持ちです。そこで、臨床英語に堪能な加藤先生に教師役をお願いして、ゼミの多くを英語で行っています。当初、なかなか英語で発言できなかった学生も徐々に馴れ、ヒアリング、スピーキングスキルとも成長しています。受講している学生にも英語に対するモチベーションが高まり、近夏休み3名がアメリカに短期語学研修に参加しました。また院生が参加させていただいている消化器内科荒川教授の回診はすべて英語で行われるため、医学生のみならず当科の院生にとっても臨床英会話を習得する貴重な場になっています。近い将来、当プログラム受講者の中から、英語圏留学者や英語圏で管理栄養士の実務に付く者が出ることを期待しています。

 当プログラム卒業1期生である林史和先生は、今春から当学部の特任助教に就任されました。学部学生の実習指導など本務の傍ら、当研究科佐伯茂教授のご指導のもと、研究テーマである"慢性肝疾患の病態に対する過栄養・インスリン抵抗性の影響"を分子栄養学的手法で解析する基礎実験に取り組むとともに、臨床テーマである"肝硬変に併存するサルコペニアの病態と食・生活習慣の関連性"に関しても、関西医大、兵庫医大との共同研究として、本プログラムの履修生とともに取り組んでいます。

 平成22年度から当プログラムの担当特任助教として、百木和先生は、近春帝塚山大学の講師に栄転されました。現在はお忙しい本務の間をぬって、当研究科の研究員として当該プログラム受講中の院生の教育を助けていただいています。百木講師は"高齢者に対する臨床栄養学的アプローチ"を課題として取り組んでおり、東住吉区内の老健施設、東住吉リハビリテーション病院、大阪市内の療養型病院2か所、クリニック2か所、門真市内の特別養護老人ホームなどとの共同研究を当科学生の指導を兼ねて、担っていただいています。

 本GPの社会貢献として、本プログラムに沿って得た知見などを広く社会に広報、波及させる目的で、"大阪栄養・介護セミナー"を開催しています。平成22年度から阪南中央病院診療局 栄養科部長萩原喜代美先生、大阪市立大学附属病院 栄養部副主幹 塚田定信先生、大阪府立急性期・総合医療センター栄養管理室室長 植田 明美先生、東住吉森本病院栄養科 主任 岩谷聡先生の4名の管理栄養士の方に世話人になっていただき、地域に密着した栄養管理を進める目的の研究会になりました。今年度は、平成25年2月8日に第4回大阪栄養・介護セミナーを開催し、"集団患者指導、栄養教室の取り組み‐"と題してパネルディスカッションを、阪南中央病院診療局 栄養科部長萩原喜代美先生に、"地域における栄養管理‐栄養連携病院としての試み‐"と題した特別講演いただき、大変好評でした。次年度も病院と地域を栄養管理で結ぶ運動の一環として継続して行く予定です。

 なお、本年度の特筆すべき院生の業績として、第8回大阪NST研究会における"JASPEN2013アンコールセッション"に、当研究科、寺田師君の"開心術患者における栄養状態と術後経過との関連性及び日常生活における食事内容"と、濱野正和君の"回復期リハビリテーション病院入院患者における栄養状態とリハビリテーション効果との関連性"の2演題が選出されました。同賞は、1,300演題を超える本年度日本静脈経腸栄養学会の演題の中から、わずか4演題のみが選出され、地元の管理栄養士に対する教育目的で再度講演するという非常に名誉なアワードですが、その貴重な4題中の2題を当科院生が受賞し、話題になりました。

 以上、大学院教育改革支援プログラムとしての本年度の活動をご報告いたしました。地域に根差した教育プログラムとして継続、発展させて行ければと希望しています。引き続きご支援をお願いいたします。